(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 目的

ロボット掃除機ロボット掃除機 本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
 従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
 しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
 そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。

2. 解析対象の技術

 本技術解析では、ロボット掃除機に関する技術を解析対象とする。
 ロボット掃除機とは、掃除領域(例えば、部屋)を自律的又は自走式で移動して掃除をするロボットである。
 最近では人工知能(AI)を搭載して部屋の間取りを学習する機能や、スマートフォンと連携して外出先からの操作や掃除個所の指定が可能な機能などが開発され、注目を浴びている。
 本技術解析では、ロボット掃除機に関する技術を解析対象とする。

3. 解析対象の母集団

 表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
 表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国のロボット掃除機に関する特許出願を解析対象とした。
 解析対象の母集団は、7,616件である。

 【表1】
検索式

4. 特許出願国

 解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
 解析チャート1によれば、ロボット掃除機に関する特許出願は、中国において比較的多くなされている。すなわち、各企業の中国市場に対する期待の大きさを推定できる。
 他の注目すべき点は、国の人口を考慮すると、韓国の特許出願が比較的に多いということである。

【解析チャート1】
特許出願国

5. 特許出願年

 解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
 解析チャート2によれば、各国の特許出願は、近年において増加傾向にあることがわかる。特に、中国においては、2014年以降に特許出願が急激に増えている。すなわち、各企業の中国市場に対する期待の大きさを推定できる。

【解析チャート2】
特許出願年

6. 量的特許価値

 解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。

・被引用件数 (DOCDB)
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
量的特許価値

7. 質的特許価値

 解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
 解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
 すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。

【解析チャート4】
質的特許価値

8. 上位10社の強み・弱み

 解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
 解析チャート5に示すように、注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
 ただし、今回のロボット掃除機に関する解析においては、SAMSUNG社とLG社が、いずれの技術分野においても他社より秀でていることがわかる。

【解析チャート5】
技術的な強み・弱み

9. 世界特許No.1

 JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、IROBOT社(米国)の「Application of localization, positioning and navigation systems for robotic enabled mobile products」である。
 本特許は、その被引用件数が68件と比較的多いことから、他社の特許出願の権利化を比較的多く阻止してきたと言える。

【出願番号】 US42996309A - 12429963 (2009-04-24)
【特許番号】 US8452450 - 08452450 (2013-05-28)
【権利者履歴】
EVOLUTION ROBOTICS, CALIFORNIA (2009-07-15)
EVOLUTION ROBOTICS, CALIFORNIA (2009-07-15) EVOLUTION ROBOTICS, INC., CALIFORNIA (2012-02-23)
IROBOT CORPORATION, MASSACHUSETTS (2013-05-23)

【名称】 Application of localization, positioning and navigation systems for robotic enabled mobile products
【要約】 A robotic cleaner includes a cleaning assembly for cleaning a surface and a main robot body. The main robot body houses a drive system to cause movement of the robotic cleaner and a microcontroller to control the movement of the robotic cleaner. The cleaning assembly is located in front of the drive system and a width of the cleaning assembly is greater than a width of the main robot body. A robotic cleaning system includes a main robot body and a plurality of cleaning assemblies for cleaning a surface.
【代表図】
IROBOの特許

10. 最終分析

 解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
 解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。

【解析チャート6】
特許価値

11. 総括

 本技術解析によれば、ロボット掃除機に関する技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、SAMSUNG社(韓国)、LG社(韓国)、IROBOT社(米国)の3強と言える。
 日本企業に着目すると、SHARP社、TOSHIBA LIFESTYLE社、HITACHI APPLIANCES社が上位にランキングしている。
 しかしながら、これら日本企業は、前記3強に比べると、その技術競争優位性に比較的大きな隔たりがあるものと見受けられる。
 日本企業の今後の活躍に期待するとともに、この点は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。

本解析の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)