(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 市場調査の目的

生分解性プラスチック生分解性プラスチック この市場調査は、中国市場に関し、特定技術分野におけるブルー・オーシャン市場を見出すことにある。
 ブルー・オーシャン市場とは、競争相手のいない未開拓市場のことで、文字通り「のどかで穏やかな青い海」のような市場を言う。
 ブルー・オーシャン市場に基づく経営戦略は、欧州経営大学院のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏が2005年頃にビジネス書で提唱したものである。
 ブルー・オーシャン戦略によると、血で血を洗うような競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」とし、そこから可能な限り脱却して、競争のない理想的な未開拓市場である「ブルー・オーシャン(青い海)」を切り開くべきだと説いている。
 すなわち、自社の現在の立ち位置又は将来の進むべき道がレッド・オーシャン市場なのか、又はブルー・オーシャン市場なのかを把握することは、自社の開発ロードマップや営業戦略の策定に重要な意義を有すると考える。

2. 調査対象の技術分野

 今回の調査対象は、生分解性プラスチックに関する分野である。
 生分解性プラスチックとは、JBPA識別表示制度のグリーンプラマークの取得表示基準では、通常のプラスチックと同様に使うことができ、使用後は自然界に存在する微生物のはたらきで、最終的に水と二酸化炭素に分解されるプラスチックであると定義されている。
 生分解性プラスチックには、生物資源(バイオマス)由来のもの(バイオマスプラスチック)と、石油由来のもの(石油合成プラスチック)がある。生分解性があれば、原料が何であるかは問わない。
 環境分解性の完全生分解性プラスチックは、微生物などによって分解し、最終的に水と二酸化炭素に完全に分解する性質を持っている。そのため、ゴミとして投棄された場合に、半永久的に分解されずに残る従来のプラスチックに比べ、自然環境への負担が少ない。
 このような生分解性プラスチックは、地球環境保護の一翼を担うと期待されている。

3. 調査対象の母集団

 中国市場のブルー・オーシャン市場を発掘するために、本調査では中国の特許情報を用いる。
 中国の特許情報をAI解析することにより、ブルー・オーシャン市場の所在の見える化をする。


4. アプリケーションの占有割合

 解析チャート1は、中国市場における生分解性プラスチックの特許情報に関し、生分解性プラスチックの適用分野(以下、アプリケーションと適宜に称する)の占有割合を示している。
 例えば、解析チャート1に示す通り、生分解性プラスチックが最も適用されているアプリケーションは、ペットボトルに代表される容器類であることがわかる。
 ただし、解析チャート1に示す通り、幅広いアプリケーションに対して生分解性プラスチックが適用されていることも把握できる。
 この点から、生分解性プラスチックは、いずれのアプリケーションに対しても期待が寄せられているものと言える。

【解析チャート1】

5. アプリケーションの年次変化

 解析チャート2は、生分解性プラスチックのアプリケーションに関し、特許出願数の経年変化を示している。
 例えば、解析チャート2に示す通り、近年において、容器類、衣料類、衛材、医療、建造物に対するアプリケーションの特許出願数が大幅に増加傾向にあることがわかる。
 換言すると、現在及び将来の中国市場において、それらのアプリケーションへの適用に大きな期待が寄せられていることがわかる。

【解析チャート2】

6. アプリケーションの年次変化②  

 解析チャート3は、前ページの解析チャートを三次元に現わしたものである。
 赤系色は特許出願数が相対的に多いことを示し、青系色は特許出願数が相対的に少ないことを示している。

【解析チャート3】

7. ブルー・オーシャン市場の発掘

 解析チャート4は、ブルー・オーシャンを発掘するものである。
 解析チャートの横軸は、特許出願数つまり競争の激しさを示している。
 縦軸は、特許スコア平均値つまり、特許の活性度を示している。
 なお、特許スコアとは、審判系手続きの数や年金納付年数を数値化したものである。
 審判系手続きが多いということは、特許出願人が是が非でも特許権を取得したいという意味や、他社が是が非でも特許権を消滅させたいという意味と解することができる。
 年金納付年数は、その年数が多いほど、特許出願人がその特許権に価値を見出していると解することができる。
 解析チャートの考察は次の頁で述べる。

【解析チャート4】

8. ブルー・オーシャン市場の発掘に関する考察

 解析チャート4に示した通り、生分解性プラスチックの中国におけるブルー・オーシャン市場は、船舶、自動車、航空、日用品、情報端末、玩具・文具類というアプリケーションであることがわかる。
 すなわち、船舶、自動車、航空、日用品、情報端末、玩具・文具類というアプリケーションは、競争相手の少ない未開拓市場、つまり文字通り「のどかで穏やかな青い海」と解することができる。
 一方、建造物というアプリケーションは、解析チャート1~3に示した通り、確かに現在及び将来にわたって大きな期待が寄せられているものの、血で血を洗うような競争の激しいレッド・オーシャン市場に属していることがわかる。また、容器類、衣料類、衛材、医療というアプリケーションは、レッド・オーシャン市場に近いイエロー・オーシャン市場に属していることがわかる。
 レッド・オーシャン市場やイエロー・オーシャン市場に属するアプリケーションについては、その研究開発にヒト・モノ・カネを投入したとしても、そのリターンが期待できないおそれがある。
 さて、ブルー・オーシャン市場に属する船舶、自動車、航空、日用品、情報端末、玩具・文具類というアプリケーションに焦点をあてて更に次の頁で解析をする。

9. ブルー・オーシャン市場に属するアプリケーションの追加解析

 解析チャート5は、ブルー・オーシャン市場に属するアプリケーションに関し、過去20年間にわたる特許価値の累積値を示したものである。
 ここでの累積値は、過去20年間で積み重ねてきた無形資産の大きさとも言える。
 解析チャート5に示す通り、ブルー・オーシャン市場に属するアプリケーションのうち、自動車、玩具・文具類、情報端末というアプリケーションは、航空、船舶、日用品よりも、グラフの上昇勾配が大きいものになっている。
 つまり、自動車、玩具・文具類、情報端末というアプリケーションは、現在及び将来にわたって大きなビジネスチャンスとなり得ると考察できる。

【解析チャート5】

10. 調査の総括

 解析チャート4や解析チャート5に示した通り、生分解性プラスチックが適用されるアプリケーションのうち、中国におけるブルー・オーシャン市場に属すると共に市場規模の増大を見込めるアプリケーションは、自動車、玩具・文具類、情報端末というものであることがわかる。
 すなわち、自動車、玩具・文具類、情報端末に対する生分解性プラスチックの適用は、その研究開発にヒト・モノ・カネを投入した場合、大きなリターンを得る可能性があるものと言える。
 生分解性プラスチックに関する企業の経営者や研究開発者は、中国に対する事業を展開するに際し、このような点を考慮しつつ、自社の開発ロードマップや営業戦略を策定すべきである。

11. 最後に

 本調査は、特許情報に基づいた市場調査を試みたものである。
 一般的な市場調査は、数十万円~数百万円の費用を要する場合が比較的多い。
 本調査の手法によれば、数万円からの調査が可能になり、必要なときに迅速に調査をすることができるようになると考える。
 会社の経営者、開発者の一助になれば幸いである。

本調査の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)