(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 市場調査の目的

CO2回収・貯留CO2回収・貯留 この市場調査の目的は、中国市場に関し、特定技術分野におけるブルー・オーシャン市場を見出すことにある。
 ブルー・オーシャン市場とは、競争相手のいない未開拓市場のことで、文字通り「のどかで穏やかな青い海」のような市場を言う。
 ブルー・オーシャン市場に基づく経営戦略は、欧州経営大学院のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏が2005年頃にビジネス書で提唱したものである。
 ブルー・オーシャン戦略によると、血で血を洗うような競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」とし、そこから可能な限り脱却して、競争のない理想的な未開拓市場である「ブルー・オーシャン(青い海)」を切り開くべきだと説いている。
 すなわち、自社の現在の立ち位置又は将来の進むべき道がレッド・オーシャン市場なのか、又はブルー・オーシャン市場なのかを把握することは、自社の開発ロードマップや営業戦略の策定に重要な意義を有すると考える。

2. 調査対象の技術分野

 今回の調査対象は、CO2回収・貯留に関する技術分野である。
 CO2回収・貯留は、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とも称される。
 CCSとは、カーボンニュートラルの切り札として注目が集まっているものであり、二酸化炭素(CO2)を回収して地中に貯留するための一連の技術を指す。


 出典:経済産業省 資源エネルギー庁

3. 調査対象の母集団

 中国市場のブルー・オーシャン市場を発掘するために、本調査では中国の特許情報を用いる。
 中国の特許情報をAI解析することにより、ブルー・オーシャン市場の所在の見える化をする。


4. アプリケーションの占有割合

 解析チャート1は、中国市場におけるCO2回収・貯留に関する技術(以下、適宜にCCS技術と称する)の特許情報に関し、CCS技術の適用分野(以下、アプリケーションと適宜に称する)の占有割合を示している。
 例えば、解析チャート1に示す通り、CCS技術が適用されているアプリケーションは、自動車、発電・変電、医療が比較的多いことがわかる。

【解析チャート1】

5. アプリケーションの年次変化

 解析チャート2は、CCS技術のアプリケーションに関し、特許出願数の経年変化を示している。
 例えば、解析チャート2に示す通り、近年において、自動車、発電・変電、医療、産業設備、衣料、食品、建造物など、幅広いアプリケーションに関する特許出願数が大幅に増加傾向にあることがわかる。
 換言すると、現在及び将来の中国市場において、それらのアプリケーションへの適用に大きな期待が寄せられていることがわかる。

【解析チャート2】

6. アプリケーションの年次変化②  

 解析チャート3は、前ページの解析チャートを三次元に現わしたものである。
 赤系色は特許出願数が相対的に多いことを示し、青系色は特許出願数が相対的に少ないことを示している。

【解析チャート3】

7. ブルー・オーシャン市場の発掘

 解析チャート4は、ブルー・オーシャン市場を発掘するものである。
 解析チャートの横軸は、特許出願数つまり競争の激しさを示している。
 縦軸は、特許スコア平均値つまり、特許の活性度を示している。
 なお、本調査で使用した特許スコアの算出手法は、次ページで示す。
 また、 解析チャートの考察は後続ページで述べる。

【解析チャート4】

8. 特許スコアの算出手法

 下記の表は、前ページの解析チャートで用いた特許スコアの算出手法を示している。
 本件の特許スコアは、自己の特許出願に対して如何なる外的要因が生じたかを基準に算出したものである。
 すなわち、外的要因が多い特許出願の場合、その特許出願は、競合他社からみて脅威に感じているという仮説が成立する。
 下記の算出手法は、競合他社から見て脅威に感じる特許出願に対し、その特許スコアが高くなるように算出式を設定したものである。


9. ブルー・オーシャン市場の発掘に関する考察

 解析チャート4に示した通り、CCS技術の中国におけるブルー・オーシャン市場は、農業と食品というアプリケーションであることがわかる。
 すなわち、農業と食品というアプリケーションは、競争相手の少ない未開拓市場、つまり文字通り「のどかで穏やかな青い海」と解することができる。
 一方、自動車や発電・変電などのアプリケーションは、解析チャート1~3に示した通り、確かに現在及び将来にわたって大きな期待が寄せられているものの、血で血を洗うような競争の激しいレッド・オーシャン市場に属していることがわかる。
 つまり、自動車や発電・変電というアプリケーションは、その研究開発にヒト・モノ・カネを投入したとしても、そのリターンが期待できないおそれがある。
 さて、ブルー・オーシャン市場に属する農業と食品というアプリケーションに焦点をあてて更に次の頁で解析をする。

10. ブルー・オーシャン市場に属するアプリケーションの追加解析

 解析チャート5は、ブルー・オーシャン市場に属するアプリケーションに関し、過去20年間にわたる特許価値の累積値を示したものである。
 ここでの累積値は、過去20年間で積み重ねてきた無形資産の大きさとも言える。
 解析チャート5に示す通り、ブルー・オーシャン市場に属する農業や食品というアプリケーションは、グラフの上昇勾配が比較的大きいものになっている。
 つまり、農業や食品というアプリケーションは、現在及び将来にわたって大きなビジネスチャンスとなり得ると考察できる。

【解析チャート5】

11. 調査の総括

 解析チャート4や解析チャート5に示した通り、CO2回収・貯留技術(CCS技術)のアプリケーションに関し、中国におけるブルー・オーシャン市場に属すると共に市場規模の増大を見込めるアプリケーションは、農業や食品というものであることがわかる。
 すなわち、農業や食品に対するCCS技術の適用は、その研究開発にヒト・モノ・カネを投入した場合、そのリターンが期待できるものと言える。
 CO2回収・貯留技術に関する企業の経営者や研究開発者は、中国に対する事業を展開するに際し、このような点を考慮しつつ、自社の開発ロードマップや営業戦略を策定すべきである。

12. 最後に

 本調査は、特許情報に基づいた市場調査を試みたものである。
 一般的な市場調査は、数十万円~数百万円の費用を要する場合が比較的多い。
 本調査の手法によれば、数万円からの調査が可能になり、必要なときに迅速に調査をすることができるようになると考える。
 会社の経営者、開発者の一助になれば幸いである。

本調査の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)