(株)知財コーポレーション
喜多教知
1. 目的
本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
従前の解析は、 法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。
2. 解析対象の技術
本技術解析では、量子コンピュータに関する技術を解析対象とする。
量子コンピュータとは、重ね合わせや量子もつれと言った量子力学的な現象を用いることにより、従来のコンピュータでは現実的な時間や規模で解けなかった問題を解くことが期待されるコンピュータである。
特定の演算では、スーパーコンピュータの演算時間を大幅に短縮するという結果も報告されているものである。
本技術解析では、量子コンピュータに関する技術を解析対象とする。
3. 解析対象の母集団
表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の量子コンピュータに関する特許出願を解析対象とした。
解析対象の母集団は、827件である。
4. 特許出願国
解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
解析チャート1によれば、量子コンピュータに関する特許出願は、米国(US)が全体の半数以上を占めていることがわかる。
5. 特許出願年
解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
解析チャート2によれば、近年において米国/中国の特許出願が急増していることがわかる。
6. 量的特許価値
解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。
ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・権利付与(INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
7. 質的特許価値
解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。
8. 上位10社の強み・弱み
解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
解析チャート5に示すように、注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
例えば、D-WAVE SYSTEMS社は、特定の計算モデルに基づくコンピュータ・システム(G06N)に強みを有している。
例えばまた、MICROSOFT社とD-WAVE SYSTEMS社は、データ処理(G06F)に強みを有している。
9. 世界特許No.1
JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、D WAVE SYSTEMS(カナダ)の「Quantum processor based systems and methods that minimize an objective function」である。なお、現在の権利保有者は、BDC CAPITAL INC(カナダ)である。
【特許番号】 US9218567 - 09218567 (2015-12-22)
【権利者履歴】
D-WAVE SYSTEMS INC., CANADA (2014-03-13)
VENTURE LENDING & LEASING VI, INC., CALIFORNIA (2015-01-29)
VENTURE LENDING & LEASING VII, INC., CALIFORNIA (2015-01-29)
VENTURE LENDING & LEASING VII, INC., CALIFORNIA (2015-01-30)
VENTURE LENDING & LEASING VI, INC., CALIFORNIA (2015-01-30)
D-WAVE SYSTEMS INC., CANADA (2017-04-13) BDC CAPITAL INC., CANADA (2019-03-22)
BDC CAPITAL INC., CANADA (2019-11-29)
【名称】 Quantum processor based systems and methods that minimize an objective function
【要約】 Quantum processor based techniques minimize an objective function for example by operating the quantum processor as a sample generator providing low-energy samples from a probability distribution with high probability. The probability distribution is shaped to assign relative probabilities to samples based on their corresponding objective function values until the samples converge on a minimum for the objective function.
【代表図】
10. 最終分析
解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
解析チャート6に示す通り、量的特許価値が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
11. 総括
本技術解析によれば、量子コンピュータの技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、D-Wave Systems社である。
D-Wave Systems社は、2011年5月11日、D-Wave Systems社は、「世界初の商用量子コンピュータ」を謳ったD-Wave Oneを発表したことでも知られている。
D-Wave Systemsの今後の動向には、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。
株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)