(株)知財コーポレーション
喜多教知
1. 目的
本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。
2. 解析対象の技術
本技術解析では、有機ELディスプレイ技術を解析対象とする。
有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)とは、発光を自発的に伴う物理現象である。この有機ELを適用したディスプレイ(例えば、テレビ)が着目されている。
有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイのようなバックライトがない分、より薄くて軽量であるため壁掛けに適している。高画質・高視野角に加えてスポーツ選手などの動きにも強いと言われている。
本技術解析においては、このような有機ELディスプレイ技術を解析対象とする。
3. 解析対象の母集団
表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の有機ELディスプレイ技術に関する特許出願を解析対象とした。
解析対象の母集団は、7,072件である。
4. 特許出願国
解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
解析チャート1によれば、有機ELディスプレイ技術に関する特許出願は、国の規模から考えると、韓国の占める割合が比較的大きいことがわかる。
すなわち、有機ELディスプレイ技術に関しては、韓国に着目すべき価値があることがわかる。
5. 特許出願年
解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
解析チャート2によれば、中国と米国においては、近年における特許出願数が増大していることがわかる。
しかしながら、韓国と日本においては、或る時期をピークに近年は減少傾向にあることがわかる。この点から、韓国と日本は、種々の要因、思惑又は事情により、有機ELディスプレイの市場拡大に期待をしていないとも推察できる。
6. 量的特許価値
解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
7. 質的特許価値
解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。
8. 上位10社の強み・弱み
解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
解析チャート5に示すように、注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
ただし、本解析においては、全体的にSAMSUNG(韓国)が強すぎる結果、他社の強みが希薄に映っている。
9. 世界特許No.1
JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、LG(韓国)の「Organic light emitting diode display」である。
本特許は、その被引用件数が23件と比較的多い。すなわち、本特許は、他社の特許出願の権利化を比較的多く阻止してきたと言える。
【特許番号】 US8599149 - 08599149 (2013-12-03)
【権利者履歴】
LG DISPLAY CO., LTD., KOREA, REPUBLIC OF (2009-10-27)
【名称】Organic light emitting diode display
【要約】 An organic light emitting diode (OLED) display is disclosed. The OLED display includes a plurality of subpixels on one surface of a first substrate, a second substrate attached to the first substrate, a shield electrode on one surface of the second substrate that is not opposite to the subpixels, the shield electrode being connected to a low potential voltage source, a touch screen panel on the shield electrode, a first printed circuit board (PCB) attached to the one surface of the first substrate, the first PCB receiving a driving signal driving the subpixels from a driving device, and a second PCB attached to the one surface of the second substrate, the second PCB transmitting a sensing signal generated by the touch screen panel to an external device.
10. 最終分析
解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
11. 総括
本技術解析によれば、有機ELディスプレイに関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位を有する企業は、SAMSUNG(韓国)の1強と言える。
しかしながら、ここで着目すべきは、解析チャート2で示した通り、中国及び米国では近年における特許出願数が増大している一方で、韓国及び日本では特許出願数が減少しつつある点である。
その理由は、特許価値に着目した今回の解析では探求できないものである。韓国及び日本の各企業の事情(例えば、開発予算、開発ロードマップ、マーケティング戦略、ブランディング戦略)が存在するものと推定する。
この点は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家にとって、留意すべきものと思料する。
株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)