(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 目的

medical AImedical AI 本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
 従前の解析は、 法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
 しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
 そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。

2. 解析対象の技術

 本技術解析では、医療AIに関する技術を解析対象とする。
 病気の予防、診断、治療という医療の場面においても、AIの活用が進行している。
 患者の画像からAIが病症を判断したり、カルテの文章からAIが所定の判断をしたりするのは代表的な例である。
 本技術解析においては、このような医療AI技術を解析対象とする。

3. 解析対象の母集団

 表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
 表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の医療AI技術に関する特許出願を解析対象とした。
 解析対象の母集団は、961件である。

 【表1】

4. 特許出願国

 解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
 解析チャート1によれば、医療AI技術に関する特許出願は、各国の規模を考えると、各国均等になされていると見受けられる。
 すなわち、医療AI技術に関しては、世界共通のニーズと言える。

【解析チャート1】

5. 特許出願年

 解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
 解析チャート2によれば、各国の近年における特許出願数が増大していることがわかる。
 各国の市場が医療AIに期待を寄せていることがわかる。

【解析チャート2】

6. 量的特許価値

 解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。

・被引用件数 (DOCDB)
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】

7. 質的特許価値

 解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
 解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
 すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。

【解析チャート4】

8. 上位10社の強み・弱み

 解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
 解析チャート5に示すように、注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
 例えば、SIEMENS社は、画像解析及び画像表示に強みを有していることがわかる。
 例えばまた、ORACLEはコンピュータ演算処理に強みを有していることがわかる。

【解析チャート5】

9. 世界特許No.1

 JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、ORACLE社(米国)の「Seasonal trending, forecasting, anomaly detection, and endpoint prediction of java heap usage」である。
 本特許は、その引用件数が40件と比較的多いことから、他社の実施品と比較的近い関係にあると言える。また、その被引用件数が30件と比較的多いことから、他社の特許出願の権利化を比較的多く阻止してきたと言える。

【出願番号】 US201314109546A - 14109546 (2013-12-17)
【特許番号】 US2014310235 - 20140310235 (2014-10-16)
【権利者履歴】
ORACLE INTERNATIONAL CORPORATION, CALIFORNIA (2013-12-20)

【名称】Seasonal trending, forecasting, anomaly detection, and endpoint prediction of java heap usage
【要約】 Data can be categorized into facts, information, hypothesis, and directives. Activities that generate certain categories of data based on other categories of data through the application of knowledge which can be categorized into classifications, assessments, resolutions, and enactments. Activities can be driven by a Classification-Assessment-Resolution-Enactment (CARE) control engine. The CARE control and these categorizations can be used to enhance a multitude of systems, for example diagnostic system, such as through historical record keeping, machine learning, and automation. Such a diagnostic system can include a system that forecasts computing system failures based on the application of knowledge to system vital signs such as thread or stack segment intensity and memory heap usage. These vital signs are facts that can be classified to produce information such as memory leaks, convoy effects, or other problems. Classification can involve the automatic generation of classes, states, observations, predictions, norms, objectives, and the processing of sample intervals having irregular durations.


10. 最終分析

 解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
 解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。

【解析チャート6】

11. 総括

 本技術解析によれば、医療AIの技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、SIEMENS社(ドイツ)、ITERIS社(米国)、ORACLE社(米国)などであることがわかる。
 ここで着目すべきは、SIEMENS社は従前から医療機器に強みを有しているのに対し、ITERIS社やORACLE社は、情報開発を主業務とするIT企業である。特に、ORACLE社の保有する特許の質的特許価値が比較的大きい点が際立つ。
 すなわち、医療系のAI技術の適用に関し、IT企業が台頭している点、又は今後もその傾向が続く点は明確である。この点については、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家にとって、留意すべきものと思料する。

本解析の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)