(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 目的

燃料電池燃料電池 本特許解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。 
 従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
 しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
 そこで、本特許解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国/国際事務局(IB)に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。

2. 解析対象の技術

 本特許解析では、燃料電池に関する特許を解析対象とする。
 燃料電池とは、電気化学反応によって燃料の化学エネルギーから電力を取り出す(=発電する)電池である。燃料には方式によって、水素、炭化水素、アルコールなどを用いる。
 このような燃料電池は、「究極のクリーンエネルギー」「未来の主力エネルギー供給源」と称されることもある。
 本特許解析では、燃料電池に関する特許を解析対象とする。

3. 解析対象の母集団

 表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
 表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国/国際事務局(IB) の燃料電池に関する特許出願を解析対象とした。
 解析対象の母集団は、51,754件である。

 【表1】

4. 特許出願国

 解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
 解析チャート1によれば、燃料電池に関する特許は、日本(JP)が最も多く、全体のおよそ40%を占めていることがわかる。

【解析チャート1】

5. 特許出願年

 解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
 解析チャート2によれば、近年における日本の特許出願は減少傾向にあることがわかる。
 その一方、中国の特許出願は増加傾向にあることがわかる。
 このような点から、同じ技術であっても、国ごとの事情に由来して、その技術に対する期待度が異なることを推定できる。

【解析チャート2】

6. 上位10社の特許出願数の経年変化

 解析チャート3は、上位10社の特許出願数の経年変化を示している。
 解析チャート3によれば、車メーカ、特にHONDA社やGM社の近年における特許出願数が急減していることがわかる。

【解析チャート3】

7. 量的特許価値

 解析チャート4は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。
 ここでの累計値を量的特許価値と称する。
 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。

・被引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・権利付与(INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート4】

8. 質的特許価値

 解析チャート5は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。
 ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
 解析チャート5に示す通り、解析チャート4に示す順位とは異なることがわかる。
 すなわち、解析チャート5に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。

【解析チャート5】

9. 上位10社の強み・弱み

 解析チャート6は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
 なお、チャートの数字は量的特許価値を示している。
 解析チャート6に示すように、総じて各社は、基本的電気電子(H01)に注力していることがわかる。
 その中でも、例えば、HONDA社、TOYOTA社、HYUNDAI社、GM社、NISSAN社は、運輸(B60)つまり車両に関する燃料電池に強みを有していることがわかる。

【解析チャート6】

10. 世界横断特許No.1

 JP/US/CN/KR/WOにおいて最も特許価値を有する特許は、TOYOTA社(日本)の「Fuel cell system」である。

【出願番号】 US2010316922 - 20100316922 (2010-12-16)
【特許番号】 US8603687 - 08603687 (2013-12-10)
【権利者履歴】
TOYOTA JIDOSHA KABUSHIKI KAISHA, JAPAN (2010-08-30)
【名称】  Fuel cell system
【要約】  In order to assure drive of a drive motor, a boost operation of a boost device is appropriately performed by judging whether a voltage supplied from a fuel cell suffices a voltage required for driving the drive motor, thereby suppressing a switching loss by the boost device. A fuel cell system is a power source for driving a load.
【代表図】

11. 最終分析

 解析チャート7は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
 解析チャート7に示す通り、量的特許価値が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。

【解析チャート7】

12. 総括

 本特許解析によれば、燃料電池に係る特許に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国/国際事務局(IB)を横断した技術競争優位性を有する企業として、HONDA社(日本)、TOYOTA社(日本)、HYUNDAI社(韓国)、GM社(米国)、NISSAN社(日本)などの車メーカが挙げられる。
 しかしながら、着目すべきは解析チャート3に示す特許出願数の経年変化である。
 解析チャート3によれば、例えば、HONDA社やGM社の特許出願数が近年において急減している。
 この傾向から推定できるのは、それら企業は、燃料電池とは別に期待・開発されているリチウムイオン電池等との比較検討がなされているであろうという点である。
 この点には、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。

本解析の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)