(株)知財コーポレーション
喜多教知
1. 目的
本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。
2. 解析対象の技術
本技術解析では、カーボンナノチューブに関する技術を解析対象とする。
カーボンナノチューブとは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質である。
カーボンナノチューブに期待されている用途は、燃料電池やキャパシタ等の電池、配線材料、半導体デバイス、薄膜、医療用材料、自動車・航空機等、建築材料など多岐にわたる。また、テニスラケットや自転車のフレームなどスポーツ用品、スピーカーやヘッドフォンの振動板、電線など、製品への応用も始まっている。
本技術解析では、カーボンナノチューブに関する技術を解析対象とする。
3. 解析対象の母集団
表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国のカーボンナノチューブに関する特許出願を解析対象とした。
解析対象の母集団は、20,065件である。
4. 特許出願国
解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
解析チャート1によれば、カーボンナノチューブに関する特許出願は、各国においてほぼ均等な数になっていることがわかる。
5. 特許出願年
解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
解析チャート2によれば、経年において日本/米国/韓国の特許出願数は減少傾向にあるものの、中国の特許出願数は急増している。
この点は、中国における電気自動車やハイブリッド車の生産が増加していることに由来すると考える。
電気自動車やハイブリッド車に用いられるリチウムイオン電池の導電助剤としてカーボンナノチューブが注目されているからである。
6. 量的特許価値
解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
7. 質的特許価値
解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。
8. 上位10社の強み・弱み
解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
例えば、HON HAI PREC社は、ナノ構造物の特定の使用(B82Y)に強みを有している。
例えばまた、LG CHEMICAL社は、バッテリー関連(H01M)に強みを有している。
例えばまた、TORAY社は、ケーブル・導体・絶縁体(H01B)に強みを有している。
9. 世界特許No.1
JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、エルジー・ケム・リミテッド社(韓国)の「導電材分散液およびこれを用いて製造した二次電池」である。
【特許番号】 JP6719759B - 特許6719759 (2020-07-08)
【権利者履歴】
エルジー・ケム・リミテッド (500239823) - 大韓民国
【名称】 導電材分散液およびこれを用いて製造した二次電池
【要約】 本発明では、束型(bundle‐type)カーボンナノチューブを含む導電材と、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、分散媒とを含み、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa〜500Paである導電材分散液およびこれを用いて製造した二次電池を提供する。前記導電材分散液は、制御された複素弾性率を有することで、優れた分散性および粉体抵抗特性を示し、結果、電池の出力特性を大幅に向上させることができる。
【代表図】
10. 最終分析
解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
解析チャート6に示す通り、量的特許価値が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
11. 総括
本技術解析によれば、カーボンナノチューブの技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、HON HAI PRECISION社(台湾)とTSINGHUA大学(中国)の2強と言える。
カーボンナノチューブに関しては、電気自動車やハイブリッド車に用いられるリチウムイオン電池の導電助剤として期待が高まっている。
電気自動車やハイブリッド車の今後の発展を考えると、カーボンナノチューブについても更なる発展が期待される。
この点、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。
株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)