(株)知財コーポレーション
喜多教知
1. 目的
本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。
2. 解析対象の技術
本技術解析では、バイオマス発電に関する技術を解析対象とする。
バイオマスとは、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」のことである。例えば、木材、海草、生ゴミ、紙、動物の死骸・ふん尿、プランクトンなどが挙げられる。
バイオマス発電では、バイオマスつまり生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」したりするなどして発電するものである。
このようなバイオマス発電は、温室効果ガス排出の削減という環境貢献という点や、化石燃料(例えば石油)に依存しない原料供給という点で期待が寄せられている。
本技術解析では、バイオマス発電に関する技術を解析対象とする。
3. 解析対象の母集団
表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国のバイオマス発電に関する特許出願を解析対象とした。
解析対象の母集団は、7,480件である。
4. 特許出願国
解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
解析チャート1によれば、バイオマス発電に関する特許出願は、中国の占める割合が非常に大きいことがわかる。
中国は、エネルギー源として石炭に頼ってきたものの、二酸化炭素などの排出量を削減する取り組みを積極的に実施しており、解析チャートはその結果を示していると考える。
5. 特許出願年
解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
解析チャート2によれば、他国の特許出願数と比べると、中国の特許出願が急増していることがわかる。
中国市場におけるバイオマス発電に対する期待度の大きさを推定できる。
6. 量的特許価値
解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
7. 質的特許価値
解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。
8. 上位10社の強み・弱み
解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
解析チャート5に示すように、注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
例えば、XYLECO社は、バイオマス燃料それ自体に強みを有している。
例えばまた、BEIJING YIQINGYUAN ENV PROT TECH社は、水,廃水,下水または汚泥の処理に強みを有している。
例えばまた、MITSUBISHI HEAVY IND社は、蒸気機関設備に強みを有している。
9. 世界特許No.1
JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、XYLECO社(米国)の「Processing biomass」である。
ここでの特許価値とは、「6. 量的特許価値」で示したパラメータに基づき算出したものである。
【特許番号】 US8415122 - 08415122 (2013-04-09)
【権利者履歴】
XYLECO, INC., MASSACHUSETTS (2010-11-23)
【名称】 Processing biomass
【要約】 Biomass feedstocks (e.g., plant biomass, animal biomass, and municipal waste biomass) are processed to produce useful products, such as fuels. For example, systems are described that can use feedstock materials, such as cellulosic and/or lignocellulosic materials and/or starchy materials, to produce a product or intermediate, e.g., energy, a food, a fuel, or a material.
【代表図】
10. 最終分析
解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
11. 総括
本技術解析によれば、バイオマス発電に関する技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、XYLECO社(米国:マサチューセッツ州)の1強と言える。
バイオマス発電の世界特許出願の8割は中国出願であるにもかかわらず、最も技術競争優位性を有するXYLECO社は米国企業である点が非常に興味深い。
また、石油資源に恵まれない日本における企業として、MITSUBISHI HEAVY IND社(日本)が奮闘し、その質的特許価値の高さは比較的に高いものになっている。
これらの点は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。
株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)