(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 目的

batterybattery 本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
 従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることなることから、国ごとになされるのが一般的であった。
 しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
 そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。

2. 解析対象の技術

 本技術解析では、電気自動車用のバッテリー技術を解析対象とする。
 電気自動車(駆動)用バッテリーは、この10年でEVの普及と共に目覚ましい進歩を遂げている。例えば、リチウムイオン電池をバッテリーとして用いるための創意工夫が実施されている。
 本技術解析においては、特定のバッテリー種別(例えば、リチウムイオン電池)に限定せずに、電気自動車用バッテリーという大きな括りで解析をする。

3. 解析対象の母集団

 表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
 表1に示す通り、2008年1月1日~2018年1月1日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の電気自動車用バッテリーに関する特許出願を解析対象とした。
 解析対象の母集団は、25,542件である。

 【表1】

4. 特許出願国

 解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
 解析チャート1によれば、電気自動車用バッテリーに関する特許出願は、中国が最も多いことがわかる。すなわち、電気自動車用バッテリーの市場として中国が最も期待されていることがわかる。

【解析チャート1】

5. 特許出願年

 解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
 解析チャート2によれば、近年における特許出願数が増大していることがわかる。換言すると、電気自動車用バッテリー、大きな市場を生み出す成長分野と期待されていることがわかる。

【解析チャート2】

6. 量的特許価値

 解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。

・被引用件数 (DOCDB)
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】

7. 質的特許価値

 解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
 解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。

【解析チャート4】

8. 質的特許価値2

 解析チャート5は、本解析の母集団25542件のうち特許価値の大きい上位1000特許において、出願数の多い上位10社を示している。
 解析チャート5に示す上位10社は、特許価値の大きい、つまり質の高い特許を比較的多く保有している会社と言える。
 ただし、電気自動車用バッテリーは重要技術であることから、各社の質的特許価値は総じて比較的高いと見受けられる。

【解析チャート5】

9. 世界特許No.1

 JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、CHARGE PEAK(カナダ)の「Battery exchange station」である。
 当該特許の被引用件数を参照すると、多くの他社特許出願の審査過程で引用されているものと言える。

【出願番号】 US56310309A - 12563103 (2009-09-18)
【特許番号】 US8164300 - 08164300 (2012-04-24)
【権利者履歴】
CHARGE PEAK LTD., CANADA (2015-02-17)
BETTER PLACE GMBH, SWITZERLAND (2012-02-29)
【名称】 Battery exchange station
【要約】 At a battery exchange station a discharged battery is removed and a charged battery is inserted into an electric vehicle. The battery exchange station has various mechanisms to make this exchange. In some embodiments, the batteries are stored in a warehouse, where they are given an appropriate amount of charge. The charged batteries are moved from the warehouse by an automated robotic mechanism. The automated robotic system provides the charged battery to a battery exchange system which inserts the charged battery into the vehicle after it removes the discharged battery from the vehicle. The insertion and removal of the battery is done vertically, i.e., into and out of the bottom of the vehicle. The battery exchange system is located in a service bay under the vehicle. A sliding door system creates an opening above the service bay. The opening is of variable size depending on the size of the vehicle.

10. 最終分析

 解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
 解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
 ただし、電気自動車用バッテリーに関しては、各社が成長分野と捉えていることから、質的特許価値に関しても総じてその数値が比較的高いものと言える。

【解析チャート6】

11. 結論

 本技術解析によれば、電気自動車用バッテリーに関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位を有する企業は、トヨタ自動車(日本)と本田技研工業(日本)の2強であり、現代自動車(韓国)が追従する形勢と言える。
 ここで着目すべきは、BYD(中国)、国家電網(中国)、三菱電機(日本)などの電気・電力分野を主力とする企業の電気自動車に対する勢力が強まっている点である。この点は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家にとって、着目すべきものと思料する。

本解析の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)