(株)知財コーポレーション
喜多教知
1. 目的
本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることなることから、国ごとになされるのが一般的であった。
しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。
2. 解析対象の技術
本技術解析では、自動運転用の自動車センサ技術を解析対象とする。
自動運転(Autonomous Driving)を行うためには、周辺の人や物体などのセンシングが重要となる。
自動運転に使われるセンサはカメラや3D-LiDARやミリ波センサ、加速度センサやGPSセンサなど様々な種類が存在する。
そのセンサの役割は、人間で例えると、目の代わりであったり、人が目をつぶって歩いたときに周りの形状や壁までの距離を探るための手のような役割をしたりするものがある。
また、今どの辺をどの方向で進んでいるのかといった人でいう土地勘を担うようなセンサや今、車の動きがどうなっているのか、人で言う三半規管的な役割を果たしてくれるセンサもある。
本技術解析においては、このような自動運転用の自動車センサを解析対象とする。
3. 解析対象の母集団
表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
表1に示す通り、2008年1月1日~2018年1月1日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の自動運転用の自動車センサに関する特許出願を解析対象とした。
解析対象の母集団は、9,492件である。
4. 特許出願国
解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
解析チャート1によれば、自動運転用センサに関する特許出願は、中国が最も多いことがわかる。すなわち、自動車センサの市場として中国が最も期待されていることがわかる。
5. 特許出願年
解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
解析チャート2によれば、近年における特許出願数が各国で増大していることがわかる。換言すると、自動運転用センサは大きな市場を生み出す成長分野と期待されていることがわかる。
6. 量的特許価値
解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、 特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】
7. 質的特許価値
解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。
8. 上位10社の強み・弱み
解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
解析チャート5に示すように、自社が注力している技術分野が会社ごとに異なることがわかる。
9. 世界特許No.1
JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、FLIR DETECTION, INC. (米国)の「Autonomous behaviors for a remote vehicle」である。
当該特許の権利譲渡の履歴を参照すると、5社に渡って譲渡されている。すなわち、本特許は、他社にとって大きな魅力を有するものと言える。
【特許番号】 US8255092 - 08255092 (2012-08-28)
【権利者履歴】
IROBOT CORPORATION, MASSACHUSETTS (2008-07-10)
IROBOT CORPORATION, MASSACHUSETTS (2008-07-10)
PNC BANK, NATIONAL ASSOCIATION, PENNSYLVANIA (2016-04-06)
IROBOT DEFENSE HOLDINGS, INC., MASSACHUSETTS (2016-10-03)
ENDEAVOR ROBOTICS, INC., MASSACHUSETTS (2019-04-07)
FLIR DETECTION, INC., OKLAHOMA (2019-05-21)
【名称】 Autonomous behaviors for a remote vehicle
【要約】A system for allowing an operator to switch between remote vehicle tele-operation and one or more remote vehicle autonomous behaviors. The system comprises: an operator control unit receiving input from the operator including instructions for the remote vehicle to execute an autonomous behavior; a control system on the remote vehicle for receiving the instruction to execute an autonomous behavior from the operator control unit; and a GPS receiver, an inertial measurement unit, and a navigation CPU on the remote vehicle. Upon receiving the instruction to execute an autonomous behavior, the remote vehicle executes that autonomous behavior using input from the GPS receiver, the inertial measurement unit (IMU), and the navigation CPU.
10. 最終解析
解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
解析チャート6に示す通り、量的特許価値の総計が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。
11. 総括
本技術解析によれば、自動運転用センサに関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位を有する企業は、BOSH(ドイツ)とFORD(米国)の2強と言える。
しかしながら、ここで着目すべきはGoogle(米国)及びGoogleの系列会社であるWAYMO(米国)の存在である。
Google/WYMOは、他の自動車メーカ及び自動車部品メーカに比べても、その保有する質的特許価値が比較的に大きい。
Google/WAYMOに代表されるように、自動運転に関する技術においては、自動車メーカ以外のIT企業が更に台頭すると予測される。この点は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家にとって、着目すべきものと思料する。
株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)