(株)知財コーポレーション
喜多教知 

1. 目的

5G通信5G通信 本技術解析の目的は、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家のために、最新テクノロジーに関する技術優位性を有する会社を抽出することにある。
 従前の解析は、法律や言語が国ごとに異なることから、国ごとになされるのが一般的であった。
 しかし、技術それ自体には国境はなく、複数国に跨った相対評価が望まれていた。
 そこで、本技術解析は、日本/米国/欧州/中国/韓国に跨って横断的に相対比較をすることにより、最新テクノロジーに関し、世界的な技術優位性を有する会社を見出すことを目的にする。

2. 解析対象の技術

 本技術解析では、5G通信に関する技術を解析対象とする。
 第5世代移動通信システム(5G通信)とは、1G・2G・3G・4Gに続く国際電気通信連合 (ITU)が定める規定「IMT-2020」を充足する無線通信システムである。
 5G通信は、クルマの自動運転、高精細な4K/8K映像のデータ伝送、製造プロセス全体を最適化するスマートファクトリー、ロボットアームを使った遠隔手術などを実現する「新たな社会インフラ」として期待されている。
 すなわち、5G通信は、4GだけではカバーできないIoTビジネスに対応する無線通信規格として期待されている。
 本技術解析では、5G通信に関する技術を解析対象とする。

3. 解析対象の母集団

 表1は、解析対象の母集団を決定するための検索式を示している。
 表1に示す通り、2008年1月1日~2017年12月31日という期間における日本/米国/欧州/中国/韓国の5G通信に関する特許出願を解析対象とした。
 解析対象の母集団は、1,230件である。

 【表1】

4. 特許出願国

 解析チャート1は、国単位の特許出願数を示している。
 解析チャート1によれば、5G通信に関する特許出願は、各国においてほぼ均等な数になっていることがわかる。

【解析チャート1】

5. 特許出願年

 解析チャート2は、国単位の特許出願年における特許出願数の推移を示している。
 解析チャート2によれば、近年において中国/韓国/米国の特許出願が急増していることがわかる。
 なお、日本の特許出願は増えているものの、微増に留まっている。

【解析チャート2】

6. 量的特許価値

 解析チャート3は、自社が保有する特許価値の累計に関し、上位10社を示している。ここでの累計値を量的特許価値と称する。なお、特許価値は、技術優位性を示す指標であり、以下のパラメータに基づいて算出されたものである。

・被引用件数 (DOCDB)
・引用件数 (DOCDB)
・実施許諾及びそれに類似する取引情報 (INPADOC)
・年金支払年数 (INPADOC)
・請求項数 (付与)
・優先権主張数
・PCT出願
・出願経過日数
・原出願数(分割・継続出願等)
・パテントファミリー出願国数
【解析チャート3】

7. 質的特許価値

 解析チャート4は、自社の特許出願1件あたりの特許価値の平均を示している。ここでの特許価値の平均値を質的特許価値と称する。
 解析チャート4に示す通り、解析チャート3に示す順位とは異なることがわかる。
 すなわち、解析チャート4に示す上位の企業は、特許の数よりもその質を重視していると言える。

【解析チャート4】

8. 上位10社の強み・弱み

 解析チャート5は、大きな特許価値を有する上位10社に関し、各社の技術的な強み・弱みを示している。
 ただし、本解析においては、SAMSUNG社が強すぎる結果、他社の強みが希薄に映っている。

【解析チャート5】

9. 世界特許No.1

 JP/US/CN/KRにおいて最も特許価値を有する特許は、QUALCOMM社(米国)の「Uplink delay budget feedback」である。

【出願番号】 US36496709A - 12364967 (2009-02-03)
【特許番号】 US2009196275 - 20090196275 (2009-08-06)
【権利者履歴】
QUALCOMM, INCORPORATED, CALIFORNIA (2009-02-03) QUALCOMM, INCORPORATED, CALIFORNIA (2009-02-03)
【名称】 Uplink delay budget feedback

【要約】 Systems and methodologies are described that facilitate signaling and/or utilizing uplink delay budget related feedback in a wireless communication environment. A lowest delay budget associated with a most urgent Radio Link Control (RLC) service data unit (SDU) retained in a buffer of an access terminal can be determined. Further, a portion of a Medium Access Control (MAC) header (e.g., two reserved bits, . . . ) can be configured to carry a code related to a delay threshold corresponding to the lowest delay budget.
【代表図】


10. 最終分析

 解析チャート6は、各社が保有する特許の量的特許価値と質的特許価値を同時に示したものである。
 解析チャート6に示す通り、量的特許価値が小さい会社であっても、大きな質的特許価値を有する会社が存在することがわかる。

【解析チャート6】

11. 総括

 本技術解析によれば、5G通信の技術に関し、日本/米国/欧州/中国/韓国を横断した技術競争優位性を有する企業は、SAMSUNG社(韓国)の一強にも見える。
 しかしながら、質的特許価値に着目すると、ERICSSON社(スウェーデン)やQUALCOMM社(米国)の質的特許価値は、SAMSUNG社よりも高いものになっている。
 この点も含めて付言すれば、5G通信に関する技術の今後の発展を考えると、企業間の更なる競争の激化が予測される。
 この点、経営者、開発者、ベンチャーキャピタル、投資家が着目すべき点と思料する。

本解析の問い合わせ先

株式会社知財コーポレーション
調査・情報提供グループ
喜多 教知 (kita@chizai.jp)

■解析者:株式会社知財コーポレーション (https://www.chizai.jp/)
■データベース提供者:Patentfield株式会社 (https://www.patentfield.com/)